広さが大事 ②どれくらいあればいい?
図書館の広さはどれくらいあればいいのでしょうか。
本来は、どれだけの本を置き、どれくらい閲覧席を設けて、どういう部屋をつくり、どんな機能をもたせるか、などを計画。それぞれどれくらいの面積が必要かを考え、その面積を積み上げて計算すべきでしょう。
新しくなる西東京市の中央図書館ではぜひそうしてほしいのですが、このサイトでそれをするには、筆者の適格性からムリです。
そこで、これくらいあれば本をたくさん並べられ、ゆったり読書をしたり調べ物をしたりする場所を確保できるはず――という、ざっくりした線を、ある程度の根拠をもとに探ってみます。
利用度上位の図書館を手本にすると……
図書館の延べ床面積については、日本図書館協会が人口に応じた「数値基準」を示しています。この協会は、「120年以上にわたり、日本の図書館を代表する総合的な全国組織として、図書館の成長・発展に寄与する活動を展開」しているという公益社団法人です。
この「数値基準」では、全国の市町村(政令市を除く)の公立図書館の中で、よく利用されている(人口1人あたりの貸し出し点数が多い)上位10%の図書館の平均を〈あるべき図書館〉とみなしています。背景には、利用度上位10%であれば、施設としてもお手本レベルにあるはず、という考えがあるようです。
計算方法は、次のようになっています(同協会サイトにある2004年改訂のもの)。
1,080平方メートル(最低限)に――
・人口6,900~46,300人は、1人につき0.05平方メートルを加算
・46,300~152,200人は、1人につき0.03平方メートルを加算
・152,200~379,800人は、1人につき0.02平方メートルを加算
図書館協会基準だと〈3,000㎡〉
これに従うと、西東京市の人口は20万人なので、
1,080+(39,400×0.05)+(105,900×0.03)+(47,800×0.02)=7,183平方メートル
となります。
ただ、この面積は「自治体における図書館システム全体を対象としたもの」(同協会)。すなわち、中央図書館とすべての分館を合わせた広さです。
では、このうち中央図書館はどれくらいと考えればいいのでしょうか。仮に、市内に5つある分館の大きさをいまのままとした場合、5館の延べ床面積の合計は4,245平方メートルなので、
7,183-4,254=2,938平方メートル
になります。
いまの中央図書館の延べ床面積は1,571平方メートルですから、現状の約2倍の広さが求められることになります。
とはいえ、この約3,000平方メートルというのは、以前のエントリー「広さが大事 ①いまの中央図書館はかなり狭い」で記したとおり、中央図書館としては小さめといえます。
カナダ基準なら〈5,000〜7,300㎡〉
「優れた図書館はこう準備する」(教育史料出版会、06年)という本では、図書館の設計を多数手がけたという著者の西川馨さんが、北米の事情を紹介しています。
10年以上前の状況ではありますが、以下、抜粋します。
カナダへの見学旅行の時に手に入れた資料によると、カナダ・ミシソガ市で採用している図書館合計面積の基準は、本・分館合わせて人口当り0.5sf(0.046㎡)ということであった。これは国ないし州の基準かと尋ねたところ、どこで公認された基準というのではないがアメリカ・カナダで常用されている数値であるとのことであった。さらにカナダ・オンタリオ州では0.6sf/人(0.058㎡/人)を推奨しているとのことである。(p.34 ※sfは平方フィート)
これらをもとに考えると、西東京市は人口20万人なので、9,200平方メートル(ミシソガ市基準)、もしくは11,600平方メートル(オンタリオ州基準)が、合計延べ床面積としてふさわしいということになります。
先ほどと同じく、市内に5つある分館の規模は現状のまま(合計4,254平方メートル)とすると、中央図書館は4,946平方メートル(ミシソガ市基準)、または7,346平方メートル(オンタリオ基準)の大きさになります。
平均的な体格に多少の違いはあるでしょうが、カナダ人にとって機能が充実して快適だと思う図書館は、日本人にとって機能が充実して快適だと感じる図書館と極端な違いはないはずです。そう考えると、このカナダの基準も参考にしていいと思います。
最低限〈プラス800〜1,100㎡〉が大事
いい図書館にできるかどうかは、最低限必要な広さにどれだけスペースを追加できるかが大きい――。
板橋区「今後の中央図書館の施設等検討会報告書」(15年2月)を読むと、そのことがよくわかります。
この報告書は、同区の中央図書館(1970年開館)の改築を見据えて、これからの図書館について区内部で検討したもの。その中で、いまの中央図書館(延べ床面積2,907平方メートル、蔵書数21万3千冊、うち開架書庫約15万冊)の機能を維持し、バリアフリー化や書架の低層化などを実現するためには、4,200平方メートルが必要だと判断しています。
そのうえで、これからの図書館には、次の3つのスペースが求められると提言しているのです。
(1)魅力ある図書館(300平方メートル)=ロビー、カフェなどの「くつろぎ空間」
(2)図書館機能の充実(200~500平方メートル)=絵本館、郷土資料室、地域ゆかりの人物の資料室、図書館ボランティアの活動部屋
(3)生涯学習機能の強化(300平方メートル)=閲覧席とは別の学習室
※チャートは板橋区「今後の中央図書館の施設等検討会報告書」より
報告書は最終的に、「図書館の魅力を高める新たな機能を取り込むとなると、5,000㎡超えの延床面積を確保することが望ましい」と結論づけています。
蔵書数が板橋区と比較的近い西東京市の中央図書館(25万5千冊)も、このスケール感は大いに意識すべきだと考えます。
市懇談会では〈3,000〜4,000㎡台〉を検討?
西東京市でも中央図書館に求められる広さを検討しています。
15年8月に開かれた市合築複合化基本プラン策定懇談会(第3回)で出された委員提案資料「中央図書館施設の状況と必要な機能について」では、「開架室」「地域・行政資料室」「書庫」の床面積の合計について、現状よりも約600平方メートル広い1,623平方メートルが適正とされています。
そして、それらの部屋に加え、閲覧スペースやレファレンス室、カウンター、おはなしの部屋、子どもトイレ、ボランティア作業室などが必要だと記されています。
これをもとに考えると、まず現状より単純に600平方メートルは増やすわけですから約2,200平方メートルになります。それに閲覧スペースやレファレンス室、おはなしの部屋などを足していくので、3,000平方メートルは下らず、4,000平方メートル台もみえてくるはずです(資料にはそうは書かれていませんが)。
個人的には〈4,500㎡〉はほしい
こうして考えてきた結果、本や資料が豊富にあって、大人にも子どもにも快適な中央図書館にするためには、延べ床面積は4,500平方メートルはあるべき、というのがこのブログの筆者の考えです(もちろん、もっと広いに越したことはありません)。